2021年10月 2日 (土)

私の欠片(かけら)と、東京の断片

東京の生活史 (岸政彦編)の出版に合わせて、ETV特集として放送された番組

https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2021115827SA000/index.html

とにかくエモい!特に、博打で借金を作った父親が死にそうな時に花火がばんばん上がって、という話なんて、めちゃめちゃエモい。

 

いちおう語り手が主人公だけど、じつは聞き手のウェートがとても大きい。

現役デリヘル嬢の話を元同僚が聞き手になって、自分の体験を反芻している。

「語りは相互作用から生まれる」ってのがよくわかる。

小泉今日子のナレーション、これまたよい。

 

偶然と必然、個別性と一般性。

精神科医のオモロさって、こういうナラティブに巡り合えるところかな。

逆に、この番組や本がオモロない子って、精神科医やってもオモロないやろうな。

 

語りを編集するのはすごく大変だっただろう。キモの一文を選ぶのも。ご苦労様。

それにしても、岸さん、めっちゃカッコええなぁ。

 

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2021年7月 5日 (月)

アルゴリズム思考術

アルゴリズム思考術 ハヤカワ文庫 ブライアン・クリスチャン、トム・グリフィス著

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本屋をブラブラしている時にたまたま見つけた本。

人生でしばしば遭遇するような問題を解決するにあたり、アルゴリズムが使えたり使えなかったりするというお話。

たとえば、ベストの人材を雇うためにはどれくらい面接を重ねるのが良いか(最適停止)、スロット・マシーンを替えた方がいいタイミングは(多腕バンディット問題)、あるルールに則って並べ替えるのにどれくらい手間がかかるか(ソート)、探索にかかる時間を短くするための並べ方(最長未使用時間法)などなど。

全部理解しようとせずに読み流すと、けっこう楽しめます。

文献がないのが少し残念。

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2021年6月18日 (金)

ダンバー数

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%80%E3%83%B3%E3%83%90%E3%83%BC%E6%95%B0

人類学者のロビン・ダンバーによって提唱された、人間が安定的な社会関係を維持できるとされる人数の認知的な上限であり、平均150人(100~250人)と推定されている。

これは、心の理論(Theory of Mind)の思考意識水準の次元(「Aさんが〇〇と思っているとあなたは思っていると私は思う」なら3次)によって上限が決められているという(ヒトは最大4~6次、平均5次)。

これはいわゆる認知的共感性の基礎であって、心理療法であれば「あなたの奥さんが離婚したいと思っていることに、あなたはうすうす気づいておられるんですね」(3次)といったことを普通に話している。

だから、力動的なアプローチを届けられるのはせいぜい150人が限度で、それを超える場合は、診断に基づく薬物療法と標準的な関り、とせざるを得ないだろう。

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2021年6月17日 (木)

再現性のない論文の方が引用回数が多い!

Nonreplicable publications are cited more than replicable ones.

Science Advances 2021;7: eabd1705 

nature、science、主要な心理学・経済学の雑誌に載った論文のうち、再現性が示された論文より、再現性が示されなかった論文の方が引用回数が多い。しかも、再現性がないという論文が出された後も、引き続き引用され続けているという。

アカデミアはどのように対応するか?

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人間は引き算がニガテ

People systematically overlook subtractive changes

nature 592, 258-261, 2021

https://www.nature.com/articles/s41586-021-03380-y

目的を達成する(図形を完成する、対称にする、大学を改革する、など)ための方法をヒトに問うたところ、何かを足すのに比べて何かを引くと選択することが非常に少ない。特に、認知的負荷がかかった場合に顕著になる。

忙しい外来ほど、処方が多剤になることを説明してくれます。

 

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2021年2月21日 (日)

「ふつう」をデザインする

ここ3か月ほど、デザインの本をよく読んでいます。

山口周 ニュータイプの時代

原研哉 デザインのデザイン

いろいろ読んでいると、私が今やろうとしていることは、デザインすることなのだと気づきました。何をデザインしているかというと・・・というのは後ほど。。

特にインパクトがあったのは、「新美の巨人たち」(テレビ東京)という番組のマルニ木工&深澤直人「Hiroshima」という椅子を取り上げた番組

https://www.tv-tokyo.co.jp/kyojin/backnumber/index.html?trgt=20201121

地方にある経営の傾いた木工会社が、デザイナーの協力を得て、すぐれた椅子を完成させ、あのアップルにも大量に納入されるというサクセスストーリー

虚飾を排し、無駄をそぎ落とした美しさ、それに座り心地の良さを兼ね備えた椅子をデザインしたのが、プロダクト・デザイナーの深澤直人さんです。

深澤直人さんの著書「ふつう」「デザインの輪郭」を読むと、じつはIDEOから独立した著名なデザイナーでアップルのクリエイティブ・ディレクターとも親交がある人でした。

「ふつう」を突き詰めた「スーパーノーマル」とは、じつは概念の中心でありながら、すぐには見えてこないものです。平凡ではなく美しさ、それもこれ見よがしの美しさではなく、日常生活に収まる美しさや喜びを備えているのが条件です。それを深澤氏は狂気をもって追究しておられるようでした。

深澤氏は無印のデザインや開発に携わっておられたり、日本民芸館の館長をされたり、というのも納得がいきます。

最近も、NHKのデザイントークス+という番組に出演されていました。https://www.nhk.jp/p/ts/E1XN86K6YE/episode/te/9QXXMN84PQ/

Hiroshimaの次の世代の椅子として、Takoという椅子を作られたそうです。欲しいなあ!

https://webshop.maruni.com/fs/maruni/c/tako

 

私がずいぶん昔から考えているのは、「スーパーノーマルな医療とは?」ということです。もちろん凡庸ではなく、やるべきことを、過不足なく遂行するというイメージ。精神科医の場合、薬はガイドラインがあるとして、「ふつうの精神療法」とは?という疑問をここ10年くらい考えてきました。

それを視覚化し、誰にも提供できる体制をデザインする、というのが、今、書こうとしていることです。

 

 

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2020年12月15日 (火)

トリレンマ tri-lemma

ジレンマ di-lemma という言葉はおなじみでしょう。二つの相反する選択肢があり、どちらを取るかで板挟みになる、というものです。

動機づけ面接はジレンマ(あるいはアンビバレンツ)を解消するための面接法です。

それに対して、橘玲氏はコロナをめぐる状況は「感染抑制」と「経済活動」のジレンマとしてとらえるのではなく、「プライバシー保護」を含めたトリレンマとしてとらえるべきだと述べています。

https://www.tachibana-akira.com/2020/08/12705

その根拠として、「プライバシー保護」を放棄している中国が、「感染抑制」と「経済活動」を両立している(ように見える)ことを挙げています。

トリレンマの代表例として、「自由な資本移動」「為替相場の安定」「独立した金融政策」の三者は並立しないという国際金融のトリレンマを挙げています。

中国は「自由な資本移動」、EUは「独立した金融政策」を放棄しているわけですね。通貨統合せずにEUに加盟していたイギリスは、「自由な資本移動」と「独立した金融政策」を維持しつつ、「為替相場の安定」も部分的に享受してきたのかもしれません。

「トリレンマの例を考えよ」は「具体←→抽象」トレーニングに役立ちそうです。

https://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-84599-9

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2020年11月 1日 (日)

オンラインでのカウンセリング

オンライン(Zoom)でカウンセリングを受けました!

といっても、資産運用のですが。

インデックス投資で有名なカン・チュンドさんの投資相談

https://toshin-clinic.com/

実は13年くらい前にも受けたことがあって、そのころは神戸のオフィスにうかがいました。

その後、東京に進出され、今年から徳島に移住して相談はオンラインに完全移行されました。

カンさんの話しぶりは全く変わらず、内容も充実していて満足のいくものでした。受けてよかったです。

 

相談の後で、録画内容を送ってもらえます。

https://toshin-clinic.com/counseling/

その録画を見ていると、いろいろ連想がわいてきました。

 

たとえば

・自分の録画ビデオを見ることはめったにないので、自分はこんな話し方をしているんだなと

・録画はカスタマーに役立つだけでなく、サービスを提供する側の振り返りにも使えるんだ

・精神療法のSVのために録画するハードルが下がるんだ

・オンライン診療に移行したら(別に医療者が録画して渡さなくても)相手は録画して残すことができるんだな

とか。

 

現在はオンラインで会議やケースカンファ、少人数のレクチャーをやっており、これから研修会や研究会も開催予定です。

リアルはなくならないとしても、コロナを機にオンラインへの移行が促進されるでしょう。それがどのような量的・質的な変化を及ぼすのか、考えさせる体験でした。

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2020年9月 3日 (木)

The Anatomy of Health Care in the United States. JAMA 2013

前回が米国の生物医学研究のまとめなら、今回は米国の医療のまとめ。

abstract

Health care in the United States includes a vast array of complex interrelationships among those who receive, provide, and finance care. In this article, publicly available data were used to identify trends in health care, principally from 1980 to 2011, in the source and use of funds ("economic anatomy"), the people receiving and organizations providing care, and the resulting value created and health outcomes. In 2011, US health care employed 15.7% of the workforce, with expenditures of $2.7 trillion, doubling since 1980 as a percentage of US gross domestic product (GDP) to 17.9%. Yearly growth has decreased since 1970, especially since 2002, but, at 3% per year, exceeds any other industry and GDP overall. Government funding increased from 31.1% in 1980 to 42.3% in 2011. Despite the increases in resources devoted to health care, multiple health metrics, including life expectancy at birth and survival with many diseases, shows the United States trailing peer nations. The findings from this analysis contradict several common assumptions. Since 2000, (1) price (especially of hospital charges [+4.2%/y], professional services [3.6%/y], drugs and devices [+4.0%/y], and administrative costs [+5.6%/y]), not demand for services or aging of the population, produced 91% of cost increases; (2) personal out-of-pocket spending on insurance premiums and co-payments have declined from 23% to 11%; and (3) chronic illnesses account for 84% of costs overall among the entire population, not only of the elderly. Three factors have produced the most change: (1) consolidation, with fewer general hospitals and more single-specialty hospitals and physician groups, producing financial concentration in health systems, insurers, pharmacies, and benefit managers; (2) information technology, in which investment has occurred but value is elusive; and (3) the patient as consumer, whereby influence is sought outside traditional channels, using social media, informal networks, new public sources of information, and self-management software. These forces create tension among patient aims for choice, personal care, and attention; physician aims for professionalism and autonomy; and public and private payer aims for aggregate economic value across large populations. Measurements of cost and outcome (applied to groups) are supplanting individuals' preferences. Clinicians increasingly are expected to substitute social and economic goals for the needs of a single patient. These contradictory forces are difficult to reconcile, creating risk of growing instability and political tensions. A national conversation, guided by the best data and information, aimed at explicit understanding of choices, tradeoffs, and expectations, using broader definitions of health and value, is needed.

 

www.DeepL.com/Translator(無料版)で翻訳しました。まあまあいい感じです。

米国のヘルスケアには、ケアを受け、提供し、資金を提供する人々の間の複雑な相互関係の膨大な配列が含まれている。この論文では、公開されているデータを用いて、主に1980年から2011年までのヘルスケアの傾向を、資金の出所と使用(「経済的解剖学」)、ケアを受ける人と提供する組織、そしてその結果として生み出された価値と健康の結果を明らかにした。2011年には、米国の医療は労働力の15.7%を雇用し、支出は2.7兆ドルに達し、米国の国内総生産(GDP)に占める割合は、1980年から2倍の17.9%に増加した。年成長率は1970年以降、特に2002年以降は低下しているが、年率3%で他のどの産業やGDP全体をも上回っている。政府資金は1980年の31.1%から2011年には42.3%に増加した。医療に投入される資源は増加しているにもかかわらず、出生時平均寿命や多くの病気での生存率など、複数の健康指標を見ると、米国は同業国に後れを取っていることがわかります。この分析結果は、いくつかの一般的な仮定と矛盾している。2000年以降、(1)サービスへの需要や人口の高齢化ではなく、価格(特に病院代[年4.2%増]、専門サービス[年3.6%増]、医薬品や医療機器[年4.0%増]、管理費[年5.6%増])がコスト増加の91%を占めていること、(2)保険料や自己負担金にかかる個人のポケット外支出は23%から11%に減少していること、(3)高齢者だけでなく、人口全体のコストの84%を慢性疾患が占めていること。最も大きな変化をもたらしたのは3つの要因である。(1) 総合病院が減少し、単一の専門病院や医師グループが増えたことで、医療システム、保険会社、薬局、給付管理者に財政的な集中が生じたこと、(2) 投資は行われているが価値がつかめない情報技術、(3) ソーシャルメディア、非公式なネットワーク、新しい公共の情報源、自己管理ソフトウェアを使用して、従来のチャネル以外の場所で影響力を求めている消費者としての患者、の3つの要因が最も大きな変化をもたらしている。これらの力は、患者は選択、個人的なケア、注意を求め、医師は専門性と自律性を求め、公的および民間の支払者は大規模な集団全体の経済的価値を求めているという緊張感を生み出している。コストとアウトカム(集団に適用される)の測定値は、個人の嗜好に取って代わりつつある。臨床医は、社会的・経済的な目標を一人の患者のニーズに置き換えることを期待されるようになってきている。これらの矛盾した力を調整することは困難であり、不安定さと政治的緊張が高まる危険性がある。健康と価値のより広い定義を用いて、選択、トレードオフ、期待を明確に理解することを目的とした、最高のデータと情報に導かれた国民的な対話が必要である。

これをもう少しこなれた表現にしてみます。(下線は筆者が追加)

米国のヘルスケアの受益者、提供者、資金提供者の間には膨大かつ複雑な相互関係がある。本論文では公表されているデータを用いて、ヘルスケアの資金源と支出先(すなわち「経済的解剖学」)、ヘルスケアの受益者と提供組織、生み出された価値と健康面のアウトカムについて、主に1980年から2011年までの傾向を明らかにする。

2011年には米国のヘルスケアは雇用の15.7%を占め、支出は2.7兆ドルに達し、国内総生産(GDP)に占める割合は1980年から倍増して17.9%に達した。年成長率は3%で、1970年以降、特に2002年以降は低下しているが、それでも他のすべての産業や全GDPの成長率を上回っている。政府の出資割合は1980年の31.1%から2011年には42.3%に増加した。医療に投入する資源は増大しているが、出生時平均寿命や多くの病気の生存率などの健康指標は他の先進国より劣っている。

分析結果のうち一般常識と異なる点を挙げると、2000年以降、(1)サービス需要や高齢化ではなく、価格の上昇(特に入院費[年4.2%増]、専門サービス[年3.6%増]、医薬品や医療機器[年4.0%増]、管理費[年5.6%増])がコスト増加の91%を占める、(2)保険料の上乗せや自己負担金による支出は23%から11%に減少した、(3)高齢者に限らず、全人口におけるコストの84%を慢性疾患が占める。

変化の三大要因を挙げると、(1)組織統合:総合病院が減少して単科の専門病院・医師グループが増え、医療システム、保険会社、薬局、給付管理者が財務的に統合した、(2) ITへの投資:価値を生んだとは言い難い、(3) 消費者としての患者:ソーシャルメディア、非公式なネットワーク、新たな情報源、自己管理ソフトウェアといった従来とは異なる手段で影響力を持つようになった。

こうした状況は、選択肢と個別的なケアと思いやりを求める患者と、専門性と自立性を求める医師集団レベルでの経済的価値を求める公的および民間の保険者の三者の間に摩擦を生み出している。個人の意向より集団レベルのコストとアウトカムが優先され、臨床家は個々の患者のニーズより社会的・経済的な要請を優先するよう求められつつある。これらの相反する要請を並立させるのは困難で、混乱や政治的緊張が高まる恐れがある。

最良のデータと情報を基に、健康と価値についてより広い視点を持ち、選択肢・トレードオフ・要望を明確化するための対話を全国レベルで進めていく必要がある。

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2020年8月28日 (金)

Rescuing US biomedical research from its systemic flaws

Rescuing US biomedical research from its systemic flaws

Bruce Alberts , Marc W Kirschner, Shirley Tilghman, Harold Varmus

Proc Natl Acad Sci U S A. 2014 Apr 22;111(16):5773-7

アブストも訳してみます。

The long-held but erroneous assumption of never-ending rapid growth in biomedical science has created an unsustainable hypercompetitive system that is discouraging even the most outstanding prospective students from entering our profession—and making it difficult for seasoned investigators to produce their best work. This is a recipe for long-term decline, and the problems cannot be solved with simplistic approaches. Instead, it is time to confront the dangers at hand and rethink some fundamental features of the US biomedical research ecosystem.

生物医学研究はハイペースで拡大し続けるだろうという誤った前提が維持されてきた。その結果、過度に競争的で持続困難なシステムとなり、もっとも有能で将来性ある学生ですら敬遠するようになり、ベテランの研究者も成果を生みづらくなった。拡大を前提とすることは長期的な凋落を招く要因になり、数ある問題は単純なアプローチでは解決できない。目下の危機を直視し、合衆国の生物医学研究の生態系(≒金や人の流れ)を根本から見直す必要がある。

 

6年後の現在、部外者の目から見ると、問題は悪化しているように見えます。私が考える主な要因は以下の2つです。

(1)アメリカの地位の低下(と中国の興隆)

(2)(皮肉にも)医学のもたらした長寿によって、市民の関心が新たな治療の開発から社会保障の維持にシフトした(例:オプジーボ亡国論)

 

医療のエコシステムも根本から見直す必要があると考えますが、それは次に。

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