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2020年8月26日 (水)

生命科学クライシス―新薬開発の危ない現場  リチャード・ハリス 著

アマゾンに書いた書評を転載します。

 

ビッグデータを生み出す新たな技術、多額の研究費、そして多くの科学者たちの努力と熱意に関わらず、画期的な新薬は生まれにくくなっており、新薬開発のコストは9年ごとに倍増している。本書ではその主な原因として生物医学研究の再現性の乏しさを挙げ、細胞や抗体といった材料の問題、実験手技のばらつき、研究デザインの不備、統計の悪用、モデル動物の限界といった問題を順に論じている。

そしてその背景として、ポジションと研究費をめぐる激しい競争のため、厳密さを犠牲にして論文を生産せざるを得ない研究者のジレンマを描いている。

こうした状況を変えるための試みとして、チェックリストの作成、研究プロトコールの事前登録、追試研究の重視などが挙げられているが、いずれも確立には至っていない。

(本書には書かれていないが、アメリカの重鎮による提案には、研究者の過当競争を緩和するために大学院生を削減することも含まれている。)

本書は現状に対する批判としてすっきりまとまっており、その批判はおおよそ的を射ているように思われる。アグレッシブ代表のようなボブ・ワインバーグがことごとく反論しているのが彼らしい。

 

本書は生命科学に関わるさまざまなレベルの読者に役立つ。

学部生・大学院生にとっては、生物医学研究の問題点を学ぶのに最適であり、巻末の文献を批判的に読めばさらに理解が深まるであろう。

また、実地の研究者にとっては自らの研究を振り返る材料に、指導的立場にある科学者にとっては科学政策を議論するための叩き台となるであろう。

ちなみに、しばらく前に生物医学研究から離れた評者にとっては、ほろ苦く甘酸っぱい思い出に浸る追憶の書である。

 (引用終わり)

 

ちなみに、「アメリカの重鎮による提案」とは

Rescuing US biomedical research from its systemic flaws

Bruce Alberts , Marc W Kirschner, Shirley Tilghman, Harold Varmus

Proc Natl Acad Sci U S A. 2014 Apr 22;111(16):5773-7

彼らの主張は次の文章に凝縮されていると思います:

We believe that the root cause of the widespread malaise is a longstanding assumption that the biomedical research system in the United States will expand indefinitely at a substantial rate. We are now faced with the stark realization that this is not the case. Over the last decade, the expansion has stalled and even reversed.

全般的な停滞の主な要因と考えられるのは、「合衆国の生物医学研究システムはハイペースで拡大し続ける」という前提を維持してきたことだと考える。目の前の現実はすっかり様変わりしてしまった。この10年間、拡大どころか縮小に転じているのだ。

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