「シュリンクス」というのは、精神分析にかぶれた精神科医を指す言葉で、ジェフリー・リーバーマンの著書の題名にもなっています。
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この本では、アメリカの精神医学と精神医療が、公平な視点から描かれています。精神医学の功罪をバランスよく描いているという点から、もっとも優れた精神医学入門と言えるかもしれません。
アメリカでは1940年代から70年代にかけて、精神分析が精神医学界を席巻しました。その結果はかなり悲惨なもので、多くの精神疾患の患者さんが適切な診断と治療を受けられずにいました。
1980年にロバート・スピッツァーらが新たな診断基準(DSM-III)を発表したことが分岐点になりました。DSM-IIIは、病気の原因に関する理論(主に精神分析)に頼らず、できるかぎり科学を根拠としようという意思のもとで作成されました。それにもとづいて薬物療法や精神療法の研究、さらには遺伝子や画像の研究も行われるようになり、ようやく精神医学が科学の仲間入りをしたわけです。「シュリンクス」からの反発を跳ね返したスピッツァーの英雄的な努力が描かれています。
一方、その後のDSM-5改定に関しては、不透明性に関する批判に応えられなかった責任者の不手際に疑問を呈しています。当時の学会長だったリーバーマンが尻ぬぐいをした顛末も書かれています。
興味深かったのは、アーロン・ベックが精神分析を見限って認知療法を始めたときの回想です。
「全員、とても短期間で効果が出たので、私の患者数はゼロになってしまった。上司の学科長は私の患者がみな去っていくのを見て『君は個人開業では成功できないね。何か別のことをやった方がいい』と言っていたよ。」
こんなカッコいいセリフ、医者なら言ってみたいですよね!ちゃんとシュリンクスをディスってもいます。
監訳者が研究不正で処分されたことを知っていたので敬遠していましたが、もっと早く読んで、学生に勧めておけば良かったと思いました。
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