2009年12月12日 (土)

行動科学

私の神経科学の研究は、分子生物学から始まって、分子遺伝学、解剖学、生理学、とやっていたわけですが、「なんか違うなー」と思っていました。情報処理や言語学も囓ってみましたが、ピンときませんでした。心理学にも接近しようとしましたが、どこから入ったらいいかよくわかりませんでした。精神医学に移ったのも試行錯誤の一つです。

そうこうしながら、行動科学にようやくたどりつきました。今はこの本

行動分析学入門 Book 行動分析学入門

著者:杉山 尚子,島宗理,佐藤方哉,リチャード・W. マロット,アリア・E・マロット
販売元:産業図書
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を読んでいますが、久しく味わったことのないような楽しみを覚えています。たくさんの例が挙げられており、障害者施設や精神科病棟での問題行動がかなりの割合を占めています。これは非常にありがたいです。私がこの本を読む行動が強化されているのは

問題行動にどう対処していいかわからない→「行動分析学入門」を読む→問題行動に対する解決のアイデアが出てくる

というふうにも説明できます。

行動科学がフィットしている理由としては、プラグマティズムだと思います。基礎と臨床が同じシンプルな論理の上に乗っており、そのためハトの振る舞いから組織の有りようまで同じコトバで説明できるというのは、きわめてパワフルだと思います。

逆に、認知科学に対してずっと距離を感じていたのも、さまざまな中間的な概念(仮説的構成概念)を持ち出しているのに気持ち悪さ(注)を感じていたのだ、と納得できました。

(注)新しい概念を持ち出すと、格好良く見えたりしますが、より複雑になって問題の所在が見えにくくなってしまうことが往々にしてあります。リーマンショックの主要な原因として、非常に複雑な金融商品が開発され、リスクの所在が見えにくくなったことが挙げられているのに似ています。

行動療法が基礎を置いているのは学習理論です。学習は最終的にはシナプス可塑性で説明できるはずです。思えば私の大学院のお師匠さんも「アウトプットに近い方がいい」と言って小脳や大脳皮質の研究にシフトしてこられたのでした。

認知を扱わないままだと極端に幅が狭くなってしまう(エビデンスがあるのは発達障害児の指導と強迫性障害くらい)ので、いずれは認知を扱うことになると思います。それでも、やはり行動療法をしっかり学んでいた方が、厚みが出るというか、応用が利くというか、そんな御利益があるように思われます。

今日はこんな本を仕入れてきました。

【新版】組織行動のマネジメント―入門から実践へ Book 【新版】組織行動のマネジメント―入門から実践へ

著者:スティーブン P.ロビンス
販売元:ダイヤモンド社
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世界一読まれている組織行動学の教科書とのふれこみです。500ページ近くある分厚い本ですが、面白そうです。

自分の進む道のぼんやりしたイメージが、徐々に具体的な形を取ってきているのがとてもうれしい今日この頃です。

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2009年12月 6日 (日)

行動療法・行動分析

うつ病の認知療法に対する興味から心理療法の勉強を始めてきたのですが、認知行動療法から行動療法寄りの話(北海道医療大学の坂野先生、関西学院大学の米山先生)を聴いていくうちに、関心が行動療法にシフトしてきたのでした。

現実的に、私が勤めている単科の精神病院では認知機能が落ちている人が大半なので、認知療法よりも行動療法の方が役に立ちそうなのです。たとえば、必要ない注射をしてくれとせがんでくる(泣きわめく)患者さんがいますが、どうやったらそうした問題行動を減らせるか、あるいは、薬をきちんと管理して飲んでもらうためにはどうするか、といった問題に解決を与えてくれそうなのです。

「行動」というのは内面で起こったこと(思考、イメージ、感情)も含みます。「死人にはできないこと」という人を食った定義もあるそうです。

で、ここ3週間くらいで読んできた順に挙げてみます。

方法としての行動療法 Book 方法としての行動療法

著者:山上 敏子
販売元:金剛出版
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行動療法の日本の大家といえばこの人です。3年前、大学で指導医の先生にも山上先生の本を読むよう勧められた(そのときはずばり「行動療法」という名の本)のですが、全然、ピンと来ませんでした。

山上先生によると、行動療法というのは方法の体系であり、必要に応じて適切な方法を臨機応変に利用するのが臨床の場での治療である、とのことです。これは、私の感覚に非常にフィットしました。

この本で、行動療法の入り口として行動分析からスタートするのを勧めていたので、次の本を買ってきました。

臨床行動分析のABC Book 臨床行動分析のABC

著者:松見 淳子,ユーナス ランメロ,ニコラス トールネケ
販売元:日本評論社
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表紙がきれいで中身も面白かったです。だいぶ臨床寄りで、最近流行のACT(アクセプタンス&コミットメント セラピー)の導入という感じもしました。ただ、もうちょっと基礎を勉強しないとな、という気もしました。

ご丁寧にも訳者によるあとがきに、「行動分析あるいは行動療法それ自体の入門書としては、以下に挙げた書籍のすべてを列挙した順に当たられることをお勧めします」と書いてあり、次の4冊が挙げられていたので、それに従ってみることにしました。

1)小野浩一「行動の基礎-豊かな人間理解のために」

2)山上敏子「方法としての行動療法」

3)杉山尚子等「行動分析学入門」

4)レイモンド・G・ミルテンバーガー「行動変容法入門」

 行動の基礎 豊かな人間理解のために 行動の基礎 豊かな人間理解のために
販売元:セブンアンドワイ
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レスポンデント条件付けとオペラント条件付けが中心ですが、動物実験の話が多くて、心理学の実験はこうやって組むのか、というのがわかりました。研究者時代に行動実験の論文はそこそこ読んでいたはずですが、その基礎が今になって理解できたのでした。

2)は先に読んでいて、あとは3)の要約ともいうべき

 行動分析学入門 ヒトの行動の思いがけない理由 行動分析学入門 ヒトの行動の思いがけない理由
販売元:セブンアンドワイ
セブンアンドワイで詳細を確認する

もさらっと読みました。勉強しようというモチベーションを高めてくれるいいイントロダクションです。

行動分析は狭義の治療だけでなく、仕事のパフォーマンスを上げることなども対象にしています。そうなると、社会行動や経営といったものまで含まれることになります。ますます面白そうです。

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2009年11月13日 (金)

簿記の勉強

ここ数回、認知行動療法のエントリが多かったのですが、実は主に取り組んでいたのは簿記3級の試験に向けての勉強でした。試験は11月15日でまだなのですが、3回の過去問で合格点をクリアできていたので、いちおうクリアしたと自分の中では思っています。

発想は単純で、何をするにしてもお金の動き方を知らないと始まらない、それなら一番の基本から、という考えで、今年の(唯一の)目標として挙げていました。

9月初旬から開始して2ヶ月間、テキストと問題集をコツコツやっていました。ゼロから「掛け」とか「為替」とか数十個の勘定の意味を覚え、文字通り手を動かしながら勘定の動かし方を覚えたのでした。感じとしては、中学入試の算数に似ている気がします。

「一番、簡単な試験だから」と高を括っていたのですが、どっこい意外と手強くて、マスターするまでイライラしました。できるようになると、複式簿記の仕組みがなんとなく見えてきました。「人間が生んだ最も偉大な発明の一つ」という言葉はまだまだピンと来ませんが。

簿記2級だと工業簿記も含むのでやる気はありませんが、財務諸表を読めるようになること、多少は経営分析もできるようになること、を目指したいと思います。大変そうですが。。。

(付記)11月15日、試験終わりました。自己採点では100点中96点でした。ひねった問題はわずかで、配点の大きい第3問の残高試算表や第5問の精算表は解きやすかったと思います。

2級も取ってやろうかと少し色気も出てきました。。。

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2009年10月16日 (金)

認知&行動療法学会の報告

学会に行ってきました。出張報告を書いたので、そのままアップします。

9回日本認知療法学会・第35回日本行動療法学会 (2009101112日 幕張メッセ)

1)なぜこの学会に参加したのか?

 うつ病や神経症は、薬物療法だけでは効果が不十分だったり、再発を防ぐためには服薬を続けなければ再燃・再発するケースが多いことを、普段の診療で実感している。

 うつ病や神経症に対して最もエビデンスがある心理療法は認知行動療法(CBT)であるため、私は今年度から勉強会や研修会に参加し始めている。その一環として、共同開催された上記の学会に参加することを決めた。

2)参加したプログラムについて

a) シンポジウム 「認知行動療法を日本に普及するにはどうすれば良いのか?英国のモデルから」

英国では、CBTは薬物療法とならぶ有効な治療法と認められている(その一部は今年のNHKでも放送されていた)。英国におけるCBTの現状、およびそれを参考にした日本での取り組みが紹介された。

サルコフスキス氏は英国におけるCBTの現状を報告された。エビデンスを集め、予算を獲得し、心理士を養成するシステムを作り、さらにエビデンスを集める、というシステマティックな取り組みを紹介された。また、CBTの経済的な治療対効果をはっきり数字で紹介されていた。”In the end, money drives everything.”という言葉が印象的であった。

大野裕氏からは、CBTを日本の医療現場へ導入する試みが報告された。エビデンス、診療報酬化、トレーニングについて具体的な話をされた。日本では臨床心理士が国家資格となっていないため、最初は医師による治療となるとの見通しであった。研修案はかなり具体的であり、ぜひ早めに情報をキャッチし研修を受けたい。

b) ミート・ザ・エキスパート 遊佐安一郎先生

 臨床心理士として、アメリカおよび日本の精神病院で活躍されてきた先生である。患者さんに寄り添うことの大事さ、患者さんをシステム(家族システム、治療システム、身体システム、など)の中で捉える視点を紹介された。システムの中でCBTは心理システムの意識的な領域に働きかけるものであるとされ、それ以外のシステムに働きかけるものとして、精神分析、家族療法、DBTなどにも言及された。

 エビデンスも大事だが、良くなる人が半分ということは、良くならない人も半分いるということであり、良くならない方にはいろんなアプローチが必要である、というお話もあり、種々の手法を学ぶ大切さを感じた。

c) ミート・ザ・エキスパート 原井宏明先生 「行動・認知療法とパフォーマンスマネージメント」

 強迫性障害の行動療法の日本での第一人者である。座長の先生も巻き込んで、非常に挑発的な内容であった。

 10年以上に渡るご自身の治療成績(治療した人数、改善度、治療期間)、および取り入れてきた手法を紹介された。基本はY-BOCSによる評価と曝露反応妨害法であり、効率よくするために動機付け面接、ACTなど取り入れてこられた。

 入り口(診断、重症度の判定)、出口(アウトカムの判定、外部のベンチマークとの比較)はぶれない、という姿勢は、普段、そういうことをあまり意識せず臨床を行っているものとしては反省させられた。自分が行ったことを記録し、データとして残す必要を強く感じた。

d) シンポジウム “CBT for psychosis”

 統合失調症の陽性症状・認知機能低下に対するアプローチとしてCBTを取り入れる試みが紹介された。これまでの取り組みをCBT的に捉え治すという程度で、残念ながら興味は持てなかった。

e) ケーススタディ 太田滋春先生 「CBTを軸としたストレス性疾患専門治療デイケアの試み」 

 札幌にある中江病院の心理士の方によるデイケアの試みである。通常、CBT1対1で、週11時間程度の面接という枠組みであるが、それをデイケアに拡張することで、グループで、なおかつホームワークを実践する時間と場の提供を期待している。復職デイケアよりも重度の感情障害を対象にしているという。

 週1回、午前中はグループでCBT、午後はOTをしながらCBTも交えていく、といプログラムである。心理療法とOTの(意識した)コラボレーションという面白い取り組みであり、また、漫然と続けるのでなく、アセスメントをしながら改善を試みておられる様子がうかがえた。

3)全体の感想

a) 本で読むよりも生の声を聞いた方が圧倒的に印象に残り、次につなげていこうというモチベーションとなった。

b) CBTはもちろん、それ以外の心理療法もたくさん言及されており、興味が広がった。

c) 自分が行っている診療を振り返り、客観視するために、面倒ではあるが、評価尺度を使う、データを整理する、症例報告を書く、などの必要性を感じた。

d) やはりCBTは有力な手法である。少しずつ始めており、勉強会でスーパーバイズを受けたり、研修会に参加したりして身につけていきたい。

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2009年5月22日 (金)

精神科の達人---神田橋條治先生の講演

神田橋條治先生は、日本の精神科医では知らない者がいないくらい有名な先生です。精神科診断面接のコツ(追補)、 精神療法面接のコツ、精神科養生のコツ の「コツ三部作」は非常に有名で、臨床で使える精神療法としてよく読まれています。

昨晩の当直でwebで神田橋先生の講演録を見つけました。医局でも探したのですが、この号だけ見つかりませんでした(笑)

最近、先生は双極性感情障害(躁うつ病)、PTSDについて講演されており、それに続く第三弾として発達障害のお話です。いずれも見過ごされることが多く、いわゆる「難治例」として扱われるものです。前二者も面白く、今回のも非常に興味深かったです。

特に興味深いのは、発達障害の病因として、前頭葉に加えて小脳が大事でないか、という点です。発達障害の人は不器用であること、体を使ったトレーニングにより症状が改善すること、を傍証として挙げられています。

精神科医が小脳について考えることはまずないので、そういう発想が出てくるのがすごいと思います。

小脳は学習理論が有名ですが、高次認知機能に関わっているのでないか、という話が徐々にでてきています。10年くらい前に川人光男先生の講演を聴いたとき、(充分に理解したとはいいがたいものの)非常に面白く思いました。

小脳であれば薬はあまり効かないだろう、むしろ運動を中心とした学習・トレーニングが大事になってくるだろう、と思いますね。

先生は「邪気が見える」とか「Oリング」というオカルト的な表現をされていますが、おそらく個々の患者さんの表情、雰囲気、服装、などの限られた情報を、バックグランドにある莫大な知識と経験と照らし合わせると、勝手にアイデアが出てくるのだと推察します。

凡人としては、そのギャップを地道に文献で埋めていくしかないのかな、でも、それをきっちりやっていけば新たなアイデアがどんどん出てくるだろうし、clinical neuroscientistとして相当のレベルに行けるのかな、と思います。

あと、質疑応答での先生のコメント

「全体主義的になると研究者のほうに行きまして、個性的になると治療者のほうに行きます」

はすごい的確ですね。その軸のどのあたりに自分がいるか、どちらを指向しているか、意識したいと思います。

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2009年5月13日 (水)

薬理学と、in vivoの電気生理の実験と

精神科の治療の大きなウェイトを占めるのが薬物療法です。

どの受容体に作用するかはわりと分かっているのですが、実際に脳のどの領域で、どんな効き方をしているから目的の効果を得られるのか、というメカニズムは充分に分かっているわけではありません。

現場では「この薬をこれくらい処方したらこんな効果があった」という経験の積み重ねで主にやっています。もちろんそれで上手くいけば問題ないのですが、上手くいかなかったときにいかにトラブルシューティングするか、その精度を上げるためにはやはり薬理学な知識・理解が必要だな、とあらためて感じてきた今日この頃です。

薬を入れるというインプットと、気分とか行動とかが変わるというアウトプットの間には大きなギャップがあります。その間をイメージする大きな助けとなっているのは、5年ほど前にやっていたin vivo(生きている動物)の電気生理の実験です。

マウスに麻酔をかけ、脳に電極を刺し、一個一個の神経細胞の活動を測定していました。バルビツレート麻酔で眠らせると大脳皮質の細胞はシーンと静まりかえっており、麻酔が切れてくると神経細胞が徐々に活動するようになってきます。麻酔が切れてマウスがバタバタするようになると、また麻酔を足して、というふうに、意識レベルと脳の活動を並行して観察していたことは貴重な経験であり、それこそが生理学の醍醐味だと思います。

そのときはマウスの気管切開をしたり、脳を傷つけないように薄い頭蓋骨を剥がしたり、皮膚を縫合したり、とミニミニサイズの外科手術を毎日のようにやっていました。

私自身は経験ないのですが、同じ研究室にはネコの電気生理の装置もあり、人工呼吸器をつけながら3日間、交代で記録を取り続けていたこともあったそうです。

病院で一人当直をするようになり、救命処置、特に挿管できるなければ、と感じ、そろそろ他の病院の麻酔・救急に週1回習いに行こうと思っています。それもあって、マウスに麻酔をかけていろいろ処置をしていたころのことを思い出しました。

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2007年3月23日 (金)

総説を書きました

前回の記事で書いた頼まれていた総説を書き上げました。原稿用紙20枚とそんなに多くないと思っていたのですが、いざ書いてみるとなかなか大変で、丸1ヶ月かかってしまいました。で、その内容は。。。

「plasticity_in_psychiatry.doc」をダウンロード

「fig1.pdf」をダウンロード 「fig2.pdf」をダウンロード 「fig3.pdf」をダウンロード 「fig4.pdf」をダウンロード

なんか、「精神医学入門」にしてはずいぶん難しいことを書いてしまった気がします。でもその分、プロに読んでもらっても新たな発見があるかもしれません。精神医学と神経可塑性というのは、つながりがありそうで案外これまで書かれてないので、ちょっと強引なことも書いちゃっていいのかな?

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2007年2月16日 (金)

総説を書きます!

私は長年、研究をやっていた割にほとんど論文を書いておらず、ましてや総説など考えたこともなかったのですが、今日、マイナーな雑誌ですが総説を書くよう依頼され、ありがたく引き受けることにしました。

与えられた仮題が「神経可塑性からみた精神疾患の成り立ち」とまあ、大きく来ましたね!私みたいな小心者には大それたお題ですが、理解していないことを書くわけにはいかないので、以前、研究していた「カンナビノイド」という物質から見た神経可塑性と精神疾患について書くことにしました。

カンナビノイドは大麻に含まれている成分で、当然、薬物依存に関係しています。ところがそれだけでなく、脳自身がカンナビノイドを作り出し、巧みに利用していることが分かってきました。特に、神経回路の再編成(=神経可塑性)に重要な役割を果たしているようです。

カンナビノイドは統合失調症やてんかんなどの発症に関係しているらしい、という証拠が出てきています。カンナビノイド-神経可塑性という軸から、こうした精神疾患を解明していきましょう、というのが主旨の予定です。

まあ、せっかくの機会なので、本業に差し障らない範囲で一生懸命やってみます。

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2007年2月 8日 (木)

発達障害の勉強会

2月3日(土)に明治製菓の主催の勉強会に行ってきました。(明治製菓はデプロメールの製造元です)

講師は京大保健学科の十一元三先生で、近年話題となっている児童精神医学、特に発達障害のお話でした。ここのところ、発達障害の入院がけっこうあったので、興味深く聞けました。

発達障害の重い順に並べると、自閉症、アスペルガー症候群、特定不能の広汎性発達障害(PDD-NOS)となります。この中で自閉症は児童健診などで早めに分かりますから、臨床的に問題となるのはアスペルガーとPDD-NOSとなります。

発達障害の診断的特徴としては、DSM-IVによると次の2つが統計的に有意だそうです。

1)対人相互反応性=人・集団と相互作用・共鳴しながら精神発達する能力 の障害

非言語的コミュニケーション、仲間関係、興味や共感の共有を求めない

その例として、視線の話(eye contact, presenting, pointing, gaze following)をされていました。

2)同一事物への強迫的な限局・反復

規則の過剰遵守、字義通り性、整合性を強く求める

 その他の特徴として

3)早期関連症状(どれかに当てはまることが多い)

・緊張・情動制御の問題:パニック(最多)、freezing

・注意転動性・多動性:年齢と共に改善

・感覚・知覚・運動:知覚過敏、協調運動の拙劣

4)ユニークな興味

「理科実験」が好き。京大の教官にも多い(笑)、例としてタリウムを母親に飲ませていた女子高生

 

合併する症状として

・精神病様症状が出ることも:被害関係念慮(最多)、幻聴、幻視

・うつ状態(一貫性のなさ・スイッチしやすい):独自の認知様式、強迫性との抵触、いじめ・疎外、対人的不適応の自覚

・強迫性障害

・解離症状

この中でも被害妄想と幻聴は統合失調症との鑑別で大きな問題となります。実際、「統合失調症」として治療されている広汎性発達障害の人も多いと思います。実際、鑑別の難しい例を経験しましたし、今後は抗精神病薬の使用を慎重にしないといけないな、と感じさせられました。

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2006年8月 2日 (水)

アンソニー・グレイスのセミナー

Anthony Graceのセミナーを聞きに行ってきました。実物はどこかのホームページで見たとおりのいいおっさんて感じ。

イントロは、普通のネコの絵が統合失調症の患者さんにはどんなにまがまがしく見えるかというイメージの絵を出したり(幻覚)、「ラジオチップを埋め込まれたから取り出す手術ができる病院を紹介してほしい」というメール(妄想)を紹介したり。

本題は、扁桃体への入力(prefronatal cortex, association cortex、海馬?)、側座核への入力、ドーパミンの関与など、これまでの仕事を1論文あたり1枚のシェーマと1個のデータで説明するような感じ。サマリーをつけてくれるも、読み終わらないうちに次のスライドにいくようなペースで、なかなかメモも取れませんでした。

結論として、prefronatal cortex, amygdala, hippocampus, nucleus accumbensなどが織りなすネットワークの随所随所でドーパミンが重要な制御をしており、統合失調症ではこのネットワークが破綻を来している、ということでした。

比較的新しい話であるネットワークについて(特に扁桃体関連)は詳しく述べていましたが、ドーパミンにはあまり重点が置かれていませんでした。ネットワークの話は面白いもののやや不慣れのため、完全にはついていけなかったのが残念です。ゆっくり考えれば納得いくでしょうが。とはいえ、これだけの膨大なデータをまとめ上げていく力はすごいです。

個人的には、棒グラフのきれいなデータを見せられてもin vivoの実験の難しさ・微妙さ・泥臭さを知っているので、自分でやってみる気はしませんでした。誰かが面白い実験をやってくれたら、それをヒントに治療を工夫するのが今の自分に合っているようです。

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