2008年8月12日 (火)

テトラミド

最近、知的障害児の施設の外勤を担当することになりました。てんかんは小児科の先生が主に診てくださっており、精神科医として不眠、不穏、興奮、逸脱行動、等の精神症状に対する薬物療法を行っています。

ほとんど前医の処方を継続していますが、時々、新たな問題が出てきて対応を迫られます。決まった治療法があるわけでなく、普段の診療以上に手探りです。ちなみに、この子たちに処方されている主な薬を挙げてみると、テグレトール、レボトミン、リスパダール、ジプレキサ、ピレチア、コントミン、など主に鎮静系の薬が並んでいますが、法則性はなさそうです。

最近、てんかんと重度の知的障害がある子の不眠の相談を受けました。目を離すと、夜中に外に出て行ってしまうとのことでした。デパケン、マイスタンあたりを飲んでいて、前医がサイレースを出していたのですが効果乏しく、私がユーロジンを追加してもイマイチ、レボトミンも効かず、ベゲタミンを15歳の子供に使うのも嫌だな、と思って、ダメもとでテトラミド30mgを試してもらいました。これがよく効いて、しかも朝はすっきりしているらしく、先生も目を丸くしておられました。こういう時は臨床医冥利に尽きます。

いちおう理屈はあって、てんかんの薬はだいたいGABA系に効くのでベンゾジアゼピンは効きにくいだろう、レボトミンが効かないということはドーパミン(D2受容体)もダメだろう、なら、ヒスタミン(H1)でもターゲットにするか、と考えてテトラミドを出したのです。

実は、2ヶ月ほど前、歯が痛くてPLを2包飲んだらものすごく眠くなって、次の日は昼過ぎまで仕事になりませんでした。成分を調べたらピレチアが入っていたのでした。ピレチアはベゲタミンの中にも入っています。ピレチアは抗コリン作用もあるので私はあまり使いません。

それに対して、テトラミドはうつの人の不眠にけっこう使います。ベンゾジアゼピンと違って習慣性がないと言われています。子供にも使えるようです。

| | コメント (2)

2008年8月10日 (日)

精神科の本

本業の勉強の途中経過です。アドバイス大歓迎です。

1)発達障害

発達障害の子どもたち  /杉山登志郎/著 [本] 発達障害の子どもたち /杉山登志郎/著 [本]
販売元:セブンアンドワイ ヤフー店
セブンアンドワイ ヤフー店で詳細を確認する

すごくよく売れているらしい。発達障害についての新書の中では抜群によい。まだ1/3しか読めていないが。。。

付記

「子どもたち」に対する支援はあるが、軽い障害を持ったまま大人になって、就職や職場でうまくいかなくなった人たちにどう対応すればよいか?

シゾイドとアスペルガー、違いがよく分からない。ロールシャッハで区別がつくのか?

2)てんかん、脳波

新版 脳波の旅への誘い―楽しく学べるわかりやすい脳波入門 Book 新版 脳波の旅への誘い―楽しく学べるわかりやすい脳波入門

著者:市川 忠彦
販売元:星和書店
Amazon.co.jpで詳細を確認する

先月、同僚が突然、辞めてしまい、知的障害の子供の施設へ外勤に行くことになった。てんかんの子供も多いので、付け刃で脳波の勉強を始めたところ。この本を読むのは2回目だが、何にも覚えていない。。。次は

脳波判読step by step(入門編)第4版 脳波判読step by step(入門編)第4版

販売元:楽天ブックス
楽天市場で詳細を確認する

を読むつもりでだいぶ前に買ってあるが、まだ手つかず。

3)解離性障害

解離性障害 多重人格の理解と治療   [本] 解離性障害 多重人格の理解と治療 [本]
販売元:セブンアンドワイ ヤフー店
セブンアンドワイ ヤフー店で詳細を確認する

解離する人が入院希望でよく紹介されてくる。閉鎖病棟がないのでお断りしているが、ちょっとは勉強しないと、と思って読んでいる。個人的に、解離の人には共感しにくいので、なかなか進まないが、良い本だと思う。

解離性障害―「うしろに誰かいる」の精神病理 (ちくま新書 677) Book 解離性障害―「うしろに誰かいる」の精神病理 (ちくま新書 677)

著者:柴山 雅俊
販売元:筑摩書房
Amazon.co.jpで詳細を確認する

この本のほうが手軽そうだったので読んだが、実用性に乏しい。

4)躁鬱病

躁うつ病はここまでわかった Book 躁うつ病はここまでわかった

販売元:日本評論社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

すごく良い本。外来を引き継いで、「うつ」が遷延していた患者さんは、躁うつを疑ってリチウムを出すことが多い。

5)リエゾン

コンサルテーション・リエゾンの実際―患者・家族・医療スタッフの問題と対応

神田橋先生お勧めだが、絶版になっていて、1万円の定価のところ27000円で入手した。でも、それだけの価値のある本。90もの症例を載せている。「退院したがらない患者」の対応法など、日常でよく遭遇しそうな話も多い。ぜひ復活してほしい。

6)アルコール依存

アルコール性臓器障害と依存症の治療マニュアル―急増する飲酒問題への正しい対処法 Book アルコール性臓器障害と依存症の治療マニュアル―急増する飲酒問題への正しい対処法

著者:猪野 亜朗
販売元:星和書店
Amazon.co.jpで詳細を確認する

読みやすく内容もしっかりした本。アルコール依存症の平均寿命は52歳、というのは衝撃的である。

7)その他

精神科セカンドオピニオン―正しい診断と処方を求めて Book 精神科セカンドオピニオン―正しい診断と処方を求めて

著者:誤診・誤処方を受けた患者とその家族たち,笠 陽一郎
販売元:シーニュ
Amazon.co.jpで詳細を確認する

毒舌セカンドオピニオンの笠先生による本。安易に統合失調症と診断し、抗精神病薬を大量に処方する医師への警告。

治せる精神科医との出会いかた (朝日選書) Book 治せる精神科医との出会いかた (朝日選書)

著者:中沢 正夫
販売元:朝日新聞社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

題名が笑える。精神科医療について、非常にバランスの取れた概説。「名医の条件」の節は我々にとって特に大事。

強迫性障害を自宅で治そう! 強迫性障害を自宅で治そう!

販売元:楽天ブックス
楽天市場で詳細を確認する

原井宏明先生のホームページで勧められていた。読む予定。

鬱の力 (幻冬舎新書 い 5-1) Book 鬱の力 (幻冬舎新書 い 5-1)

著者:五木 寛之,香山 リカ
販売元:幻冬舎
Amazon.co.jpで詳細を確認する

五木寛之氏の奥さんは精神科医なんですね。「鬱」の語義は「草木の茂るさま。物事の盛んなさま」らしい。

| | コメント (0)

2008年7月 1日 (火)

ナラティブ・セラピーによる薬物依存症の治療

6月23日(月)の夜に、薬屋さんの講演会に行きました。薬物依存の治療を専門に行っておられる光愛病院の小高満先生のお話でした。真っ黒に焼けた坊主頭、ぎょろっとした目、講演でもジャケットとジーパン、と独特でした。(光愛病院の先生方は皆さんラフな格好でした)

ある時代、ある社会に常識とされていることが権力として私たちを支配しており、そこから「症状」「問題」が出てくる。それをいかに無効にしていくか、というのがナラティブ・セラピーだとのことです。まあ、ポスト構造主義的な話です。

具体的には、ドラッグなしでもうまくいったことを探しだし、新たなストーリーを作り、強化していくことで、(薬に依存するという)枠組みを大幅に変える、ということです。そのために自助グループが必要になります。

面白かったのは、「薬物依存者は、その道の専門家なのだから、教えてもらうという姿勢で話を聴く」という立場です。昨年、私は何の知識もなく覚醒剤依存で自殺未遂した患者さんを受けることになり、治療薬はほとんど使わず、1週間に1回、1~2時間程度の面談で語ってもらいました。その中で、最初は被害妄想が主だったのが、徐々に現実性が戻ってきて、時には薬物依存を扱っている医療機関、自助グループ、ドラッグの密売状況、など教えてもらい、非常に勉強になりました。彼は自助グループにも参加経験があり、それでもスリップしてしまったので、さらなる助けを必要としていました。「今後、入院が必要だったら、光愛病院かな」というのが二人で出した結論でした。

ナラティブ・セラピーは、世の中の常識を破壊する力があるため、危険を伴うとのことでした。それについて質問できれば良かったのですが、時間もかなり遅かったので、遠慮してしまいました。おそらく、治療者側のアイデンティティーが揺さぶられるのが問題なのでしょう。どのあたりで折り合いをつけるのか、治療に行き詰まったときに、小高先生に教えを請うてみようと思います。

| | コメント (0)

2008年6月15日 (日)

メンタルヘルスの勉強

昨日は宇治おうばく病院主催のメンタルヘルスセミナーに行ってきました。参加者はかなり多くて、200人ぐらいでしょうか。

まずは産業精神保健のプロフェッショナルである島悟先生による1時間の概説がありました。メインテーマはうつ病による休職と復職でした。内容は多岐にわたっていましたが、印象に残った点は以下の通りです。

・だいたい休職者の7~8割が復職し、そのうち1年以上、休職なしに継続できるのは7割ぐらい。休職が重なって3回目になると、復帰が困難になる

・多方面からのケアの中でも、ラインケア(上司の部下への配慮と支援)が特に痛んでいる(管理職の加重の増大による)

・メンタルヘルスに関する取り組みとしては、聞き取り調査が重要であり、それ自体に効果がある。手間暇をかける価値がある。

・臨床的に復職可能と思われてから1ヶ月程度おいて復職すると、ちょうどタイミングがあう

内容は盛りだくさんで、もっと時間があれば、と思いました。

その後は事業所のさまざまな職種の方々から10分ずつのトークがあり、ディスカッションがありました。やはり主治医と連携が取りにくい(診断書に一行だけ「復職可能」と書いてあるのがほとんど、主治医は守秘義務があるので情報を提供しにくい)のが話題に上っていました。私自身、経験は少ないのですが、事業者側から連絡を受けることは稀ですし、もっとやりとりができれば、と思います。制度化されればこちらもやりやすいのですが。

宇治おうばく病院では、駅前のクリニック、20床弱のストレスケア病棟、復職デイケアがそろっているとのことで、見学に行かせていただきたいと思いました。

その後は、知り合いのケースワーカーさんとEAP(従業員支援プログラム、従業員の健康のサポートをする。最近はメンタルヘルスが主)の方とおしゃべりしました。「EAPは人事のアウトソースですね」という言葉が印象的でした。このあたり、精神科医としては保健診療外のビジネスチャンスかな、と思っています。

全体を通して感じたことは以下の2点。

・まずは自分が抱えているケースをケースカンファでよく検討する必要がある。他の機関との連携も必要。

・病院職員に対するメンタルヘルス向上への取り組みがほとんどないのは問題。離職率が高い原因かもしれない。

それ以外にも面白そうな話は来ているのですが、本業が疎かにならないよう気をつけます。

| | コメント (0)

2008年5月31日 (土)

総合病院の精神科2

精神科医、統合病院離れ 病床2割減、閉鎖も相次ぐという調査結果が発表になりました。通常の治療だけでなく、自殺未遂者やがん患者の心のケアなど役割が広がっているにもかかわらず、総合病院の病床数が2002年からわずか4年間で2割も減少し、さらにその傾向が続いているということです。

私が勤務する病院も、1年前に精神科病床が大幅に削減されました。記事では地方の公立病院が顕著とありましたが、実際には大阪市内でも精神科の病床はどんどん減っており、常勤の医師がいない病院も増えています。ちなみに市内には単科の精神病院はありません。

各病院とも経営が苦しく、収益力に乏しい精神科はリストラの対象になっています。行政からの補助金でなんとか継続しているものの、それもいつ切られるか分からないのが現実です。医師の側からすると、忙しい割に待遇がよくないため、敬遠されがちです。私自身も休みは減り、給料はかなり下がりました。

今日、出身大学の医局で研修病院の集まりがあり、私は部長の代理で出席しましたが、他の総合病院精神科の部長の先生方は、一方ではリストラ圧力にさらされ、もう一方では人手不足に悩んでいる(特に地方の公立病院)と窮状を訴えておられました。私も現状と問題点を述べ、教授、準教授の先生、他病院の先生方からご意見をいただきました。ここでは書けませんが、私個人に対しては「あんまり無理しないでいいよ」ということだったので、もっと気楽に取り組もうと思います。とりあえず、よく分からない理屈で残業代はつけてもらえないので、できるだけ定時に帰るよう心がけてみます。

| | コメント (2)

2008年2月26日 (火)

自殺

とうとう私の受け持ち患者さんが自殺されました。精神科医として必ず経験することですが、やはり苦い思いが残ります。

数ヶ月前、退職した同僚から引き継ぎ、毎週、外来・デイケアに来てもらっていました。根強い妄想がありましたが、前医の診断はパーソナリティ障害(うつ状態)でした。外来時は妄想を繰り返すばかりで、対話が成立しないまま時間が過ぎてました。

まもなく退職することが決まっていたので、積極的に介入するのを躊躇していましたが、体重が急激に減少し、なんとかせねば、とスタッフからの意見があり、家族に来てもらうことにしました。診断をはっきりさせたかったので、非常勤で来ておられる非常に高名なK先生に診察をお願いしていたのですが、本人は来院を拒み、奥さんだけ午前中に来られました。

K先生は奥さんから現病歴を聴取されましたが、「ご本人にも会ってみないとな」と診断には慎重でした。その後、私は奥さんから苦労をうかがい、2週間後、ご本人にも来てもらってください、とお願いしました。その午後、警察から電話があり、自宅で縊死されたとの連絡を受け、当院に通院していたことを確認されました。

後悔が募りましたが、少しでも手を打とうとしていたのがせめてもの救いでした。1週間後に病院に来られたご家族は、「今まで充分苦しんだと思います。病院には良くしていただいたと思います」と仰いました。関わっていた他のスタッフと痛みを共にできたのも助けになりました。

この1年、本当に様々な問題に直面しました。この病院では残り1ヶ月となりましたが、退院に持って行くべき患者さんがまだまだいて、気が抜けない今日この頃です。

| | コメント (7)

2008年2月17日 (日)

二次救急の講習会

去年の一次救急の講習会(BLS)に引き続き、二次救急の講習会(ACLS)にも参加してきました。転勤で全科当直が要求されるかと思って申し込んでいたのですが、結局、当直はなく、でも代金は今の病院が出してくれるからいいからまあいいや、と受けてきました。二日続けての心臓マッサージで筋肉痛です。

まずはBLSの復習で、心臓マッサージとバッグによる呼吸(CPR)、AEDによる除細動をひととおり。3ヶ月も経つと意外と忘れているものです。

その後、いろいろなケースについて、対応法を実習。主に心室頻拍、心室細動、徐脈の時のカルジオバージョン・除細動・ペーシングと、CPRの徹底、それと的確な指示を繰り返し練習しました。最後はいつものごとく、実技と筆記の試験。私は実技で追試になりましたが、なんとかパスにしてもらいました。

麻酔科とか内科の先生ばかりの中、なじみのない状況で苦戦しましたが、自分ができそうなこと、できなさそうなことを把握でき、良かったと思います。精神科病棟では除細動機なんかなかったりするので、現実的にはCPRをきっちり続けて、あとは助けを呼ぶのがベストかと。

それにしても、AHAのコースの濃密さには感心させられます。そこまででなくても、簡易版を院内で全病棟スタッフに定期的に受けてもらえたらな、と思います。

| | コメント (2)

2008年1月21日 (月)

NHKスペシャル-認知症 なぜ見過ごされるのか

今日、NHKスペシャルで「認知症 なぜ見過ごされるのか~医療体制を問う」を見ました。

主に、認知症の家族から、医者にちゃんと診断してもらえない、診断されても適切な治療を受けられない、という訴えでした。舛添大臣も来ていて、行政への要望も出ていました。

専門医の絶対数が足りない、「かかりつけ医」は認知症に対する理解が乏しい、専門医のいる病院と「かかりつけ医」のいる診療所の連携が必要になっている、といった内容でした。かかりつけ医の取り組みとして、尾道市の整形外科の医師が、共和病院の河野和彦先生の講演会に参加したり、河野先生の著書で勉強している姿が放送されていました。

さらに、老健入所者は医療保険でなく介護保険でカバーされているため、高価なアリセプトが使えない(使うと施設の持ち出しになる)という問題も提起されていました。

全体の印象としては、「医者よ、もっと勉強してくれよ」というメッセージだったと思います。それに対し、学会代表の小阪先生、医師会の理事はきちんとしたビジョンを示すことができていませんでした。

今後、75歳以上の高齢者はかかりつけ医を通じて医療にアクセスすることになりそうなので、すべてのかかりつけ医は認知症が疑わしい人をピックアップできなければなりません。そのためにも、標準化された問診票を用意し、長谷川式知能評価とともに実施する必要があるでしょう。とはいえ、こういった問診は医師でなくても可能で、保健婦などのコメディカルに健診で実施してもらえばいいのでは?

専門医のシステムも難ありです。日本老年精神医学会の専門医は、試験などの他、学会に5年以上入っていないといけないそうです。なぜ5年も学会に入っている必要があるのでしょうか?さらに、この学会に去年、参加しようとしたところ、非学会員は9万円くらいの参加費ということで、断念した苦い思いがあります。いったい、認知症医療を日本に広めようという意欲はあるのでしょうか?

認知症を巡るちぐはぐな状況を反映したような番組でした。

| | コメント (0)

2007年11月18日 (日)

一次救命の講習会

先日、窒息による心肺停止があったので、さっそく救命の講習を受けていました。まず初級編ということで、Basic Life Supportの講習http://acls.jp/course/course_bls2005.htmlでした。

初級編なで、看護師などコメディカルが中心かと思っていましたが、実際には17名の参加者のうち、看護師2名以外はすべて医師でした。しかも、参加者のリストを見ると、公立病院などがやたらと多いのに驚きました。どうやら、内科認定医を取るために必修になったためのようです。

参加者2~3人に一人の割合でインストラクターがつき、丁寧に指導していただきました。ビデオを見て頭で理解し、実技をやって体で覚え、筆記および実技のテストをすることで確認する、というサイクルがしっかりしていて、さすがアメリカ心臓協会の公認コースだな、と感じました。

内容は、いわゆる救急のABCD(Airway:気道確保、Breathing:呼吸、Circulation:循環、Defibrilation:除細動)の徹底でした。特に心臓マッサージは繰り返し行いました。本気でやると、2分間でもかなり疲れます。あとは窒息の対応を習いました。

密度が濃く、非常にためになりましたが、参加費18000円、テキスト5000円という値段は、医師以外で身銭を切って参加するのは難しいと思われます。幸い、私は勤めている病院から参加費を出してもらいましたが。

次は二次救命(ACLS)のコースに参加しようと思っています。まぁ、だんだん医者らしくなっています。

| | コメント (0)

2007年10月26日 (金)

人を看取る

いつかすることになるだろうと思っていた「看取り」ですが、思いがけない形でやってきました。

あるのどかな日の午後、医局でボンヤリしていると、「先生、Hさんが喉を詰めて大変なことになっています」と電話が。あわてて病棟に駆けつけると、顔が土色になった患者さんを大勢のスタッフが取り囲んでいます。パンを食べている時に窒息したそうです。呼吸は止まっています。気道を確保するためサクションや掃除機で吸い出そうとするもうまくいかず、狭い部屋でモニターの取り付けもままならない。心拍も停止しているようです。そのうち、「先生、挿管して!」とマッキントッシュを渡されたんですが、やったことのない私は使い方がわからず、もはやこれまで、と思った瞬間に、助けの先生が応援に駆けつけてくれ、挿管、気管支鏡による異物の除去をしてくれました。

その後、意識はないものの心拍は回復し、回復する期待もあったのですが、その日の夜中に血圧が40を切ったとの連絡があり、病院に着いてしばらくして亡くなりました。統合失調症で40年間入院していた方でした。私は半年だけ主治医を務めましたが、ほとんど疎通は取れませんでした。

身近な家族はおられず、後見人である従兄弟に連絡しましたが、遠方のため間に合いませんでした。臨終の時、本人は観察室にいて、私と看護師が詰め所で待機していましたが、心拍のモニターが途切れたのに気づくとすぐ駆けつけ、死亡確認しました。淡々としたものでした。

その後は死亡診断書を書き、来られた親戚の方に説明し、朝一番でお見送りをしました。病院内の事故が死因となってしまいましたが、親戚の方には「長い間、ありがとうございました」と言っていただきました。翌日は勤務のない日だったので助かりましたが、とにかく疲れました。

精神科病棟では窒息はけっこうあります。抗精神病薬を服用している老人はリスクが高いです。挿管が必要ですが、数をこなさないとマスターできないし、しばらくやらないとコツを忘れるそうです。呼吸器科医の妻は、「挿管チューブを気管支鏡にはめて、見ながらやったら一番入りやすいよ」と言っていますが、気管支鏡など触ったことがない精神科医が容易にできることではありません。どうしたらいいのやら。

追記:後で同僚から指摘を受けたのですが、窒息が死因の場合は外因死となり、24時間以内に警察に届ける義務があり、さらに、死亡「診断書」ではなく死亡「検案書」になるとのことでした。おとがめは来ていませんが、以後気をつけます。

| | コメント (0)

2007年10月16日 (火)

精神科がらみの事件

精神科医として働き始めたせいか、自分の職業と関係ある事件や報道には敏感になります。最近のもの3つについて述べてみます。

1)東京クリニックの医師によるリタリンの処方乱発

 これは明らかにまずいです。京都にも安易にリタリンを処方する医院があり、依存になってしまった患者さんもみました。今後、リタリンを処方できる医師は限定されるそうで、本来、リタリンで治療されるべきナルコレプシーの患者さんが迷惑を被ります。ADHDの治療薬としてもうじき発売予定のリタリン徐放剤はどうなるのでしょうか?

 リタリンと同様に問題になるのは眠剤です。私の外来にも眠剤クレクレちゃんが来ました。早くお引き取り願いたいのですが結構しつこく、どうやったら諦めてくれるか模索中です。

2)奈良の自宅放火少年の鑑定書漏洩

 これもどう見てもまずいです。逮捕された鑑定医はもちろん問題ですが、それを本にした著者、出版社も同罪です。仮に法に処せられないとしても、社会的制裁を受けるべきと考えます。

3)長浜の中国人女性による幼児殺人事件

 これは微妙な問題で、新聞で読むだけでは十分理解できません。被告は犯行前に統合失調症で入院歴があり、「娘が仲間はずれにされたと思いこんだ被害妄想の結果といえる」として心神耗弱状態だったと判決では認めながら、死刑から減刑されて無期懲役の判決となったのです。もし完全に病的体験に基づく犯行であれば、刑事責任は問われないはずですから、正常な状態と幻覚妄想状態との中間があり、それに該当するという判断なのでしょうか?

 精神科医として同様に気にかかったのは、事件当時、被告が安定剤を服用していなかった理由として、元夫が「飲ませると家事が何もできず、トイレも一人で行けない状態だったから」と説明したとのくだりです。主治医に対してそんなに薬を飲ますなよな、という気持ちと、もし自分の患者が事件を起こしたらどうしよう、という気持ちとが入り交じって、複雑な思いでした。

| | コメント (4)

2007年9月19日 (水)

安倍首相はうつ病か?

高校時代の友人から、「最近、辞任した安倍首相はうつ病だと思いますか?」という質問が来たので、できるだけわかりやすく、かつ論理的に答えようと知恵を絞ってみました。後で見返してみると、他の方にも参考になりそうだったので、ブログにアップします。

えーと、恥ずかしながら、安倍首相の精神状態について考えたことなどありませんでした。貴君と違って、あまりに違う世界の人なので、ちょっと想像できないのです(小島よしお風に言えば、「そんなの関係ねぇ!」)。でもまあ、仮に私が診察する羽目になったとして、精神科医として標準的な思考回路を説明してみます。

とりあえず、「困っていることは何ですか?」と主訴を訊いた後、うつの診断基準に当てはまるか質問をします(たとえば眠れないか、食欲がないか、判断力が鈍ってきていないか、自責感があるか、などhttp://www.utu-net.com/self/check.html)。おそらく、今の状態ではほとんどの項目が当てはまるでしょう。それと、顔色や姿勢、声の質など、非言語性の要素を加味してみます。そこで、うつ状態と診断がついたとします。

その次に、
1)まず「脳や身体に原因のあるうつ状態でないか」
2)次に「ひとりでにおこる内因性のうつ状態でないか」
3)最後に「心因があっておこっているうつ状態でないか」
という順番で考えていきます。(笠原嘉著「軽症うつ病」 講談社現代新書より。この本は抜群によい本です。)

安倍首相の場合、持病に潰瘍性大腸炎があると聞いています。潰瘍性大腸炎のような自己免疫疾患が悪化する際、精神状態が悪化することも多いですし、治療に用いるステロイドにも副作用として精神症状があります。潰瘍性大腸炎はストレスにより悪化するので、1)の可能性が高いと思われます。

念のため、これまでにうつ(躁)状態になったことがないか訊きます。あれば、内因性の(躁)うつ病の再発の可能性も十分あります。

なぜ1)2)3)の順番で考えるかというと、その順番でより焦点をしぼった治療が必要になるからです。自己免疫疾患で精神症状が出ている人に抗うつ薬を投与しても、根本的な解決にはならないことからもおわかりでしょう。

治療としては、まず休養して身体の治療に専念すること、それで十分でなければ抗うつ薬を投与する、といったところでしょうか。

| | コメント (0)

2007年7月26日 (木)

こころの臨床の総説

「こころの臨床」という雑誌に書かせていただいた総説のファイルが届いたのでアップします。

「kokoronorinsyo.pdf」をダウンロード

がんばって書いたわりに、後で読み返してみると大したことない気もしますが、図だけは上出来だと思いますので、脳の可塑性に興味のある方はご覧下さい。 Fig4

個人的には、この図が好きです。前頭前野などがループを作っていて、その真ん中にドーパミン神経があるという回路は、美しくもありなかなか手ごわくもあります。

| | コメント (2)

2007年5月23日 (水)

統合失調症のメカニズムの考察

統合失調症の病態について自分なりにいろいろ見聞きしましたが、今ひとつはっきりしません。特に、陽性症状の主因であるドーパミン神経の亢進と、前頭葉機能の低下が結びつきません。

で、神経回路の図を頭に叩き込んでつらつら考えていたところ、

まず前頭葉機能の低下が出る(あるいは、機能異常を代償しきれなくなる)

→それを代償する形でドーパミン神経が亢進する(フィードバック機構により)

→側坐核での情報の統合がうまくいかず、幻覚妄想状態になる

→それをドーパミン遮断薬で治療すると幻覚妄想は収まるが、陰性症状は残る

という仮説を思いつきました。

それをサポートする文献を探しながら、また文章を書く機会を窺ってみようかと思います、と思ってはみたものの、文献が手に入らない…

| | コメント (5)

2007年5月16日 (水)

うつ 小話

一昨日、薬屋さんのお話がありました。私が住んでいる街の精神科医からのアンケートの結果でした。

軽症~中程度のうつにパキシルを出す人がまずまず多かったのは予想がつきましたが、重症にはアモキサンを出すという意見が圧倒的に多かったのは意外でした。全国的な傾向なのか質問が出ましたが、わかりませんとの答えでした。

あとは、抗不安薬の併用をためらわない人が大多数とか、トレドミンは最大150mgまで出す先生が保険でよく切られるとか、細かいところは忘れました。

私は入院ならけっこう重症な患者さんでもパキシルで2週間は待ちますが、アモキサンはもっと早く効いてくるから使われるのかもしれません。

| | コメント (0)

2006年11月 7日 (火)

胃カメラの結果

先々週、胃カメラ飲んできましたが、その結果が出ました。

・生検は悪性所見なし。ヘリコバクター・ピロリも見られず。
・尿素呼気試験の結果も、陰性
とのことで、胃に関しては、症状あるときにH2ブロッカー頓用でよいとのコメントを頂きました。

除菌しなくてすんで嬉しいのは確かですが、騒いだわりに何も出ずちょっと気恥ずかしい気もします。いい経験にはなりました。M先生、ありがとうございました。

カメラを飲んだ日からビオフェルミンを始めたせいか、お腹は調子がいいのですが、なんだか元気が出ない今日この頃です。ちょっと運動する必要があるかもしれません。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2006年10月28日 (土)

胃カメラ飲んできました

10年以上昔から胃の調子はあまりよくなく胃薬が手放せないのですが、日経新聞9月5日夕刊に「ピロリ菌感染 胃がんリスク5倍」という記事を見つけてさらに胃が痛くなり(というかムカムカがひどくなり)、胃カメラが上手と評判の同級生に検査してもらうことにしました。

まずは呼気試験といって、ピロリ菌のウレアーゼ活性を測るため尿素の錠剤を飲み、20分ほど待ってから息を吐いて、吐く息を採取しました。これでピロリ菌の有無はだいたいわかるそうですが、カメラを飲んで診断をつけないと除菌の費用が自己負担になってしまうそうです。

次にいよいよ胃カメラ。喉をキシロカインで麻酔し(苦い)、最近はやりの鼻からではなく口からカメラを入れられたので、検査中しゃべることはできませんでした。さすがに入れられるときは嘔吐反射(ゲロゲロ)が何回か出ましたが、入ってしまえばあとは楽でした。

全体に胃・十二指腸はきれいで、ところどころに発赤しているところがあり、そこに炎症があるのでしょう、ということで生検(組織を少し切り取る)し、ピロリ菌を調べてもらえるとのことでした。

感想としては、上手な人にやってもらえるのなら苦痛はバリウムを飲むのとたいして変わらない、自分の目で見れるのがうれしい、疑わしい所見は生検で調べてもらえるのがありがたい、といったところでしょうか。M先生、ありがとうございました。

結果は後日報告します。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2006年10月 5日 (木)

躁の治療

うちの病棟では、最近、躁の患者さんが増えています(なぜか女性ばかり)。季節性があるのでしょうか?

治療はリーマスやデパケンといった気分安定薬を中心に、興奮が強いときはメジャー・トランキライザーを加えます。以前はロドピンを使っていたみたいですが、鎮静が強くてトロトロになってしまうので、最近はリスパダールを使うのが主流のようです。怒りまくっているところをなだめてリスパダール液を服用してもらうと、20分くらいで収まってきて、液剤のいい使い方だと感じました。

リスパダールは4mgでも急性ジストニアが二人続けて出ました。若い人は出やすいようです。「ジプレキサは太るから嫌!」と拒否されるし、なかなか難しいです。

| | コメント (3) | トラックバック (1)

2006年9月28日 (木)

バルプロ酸による躁の治療

Linear relationship of valproate seurm concentration to response and optimal serum levels for acute mania  Am. J. Psychiatry 163:2,2006

躁の急性期の治療にはデパケン100microg/ml近く必要らしいです。ということでドバッと使おうと思ったら、生化学のデータがイマイチで増やせませんでした。なかなか思うように使えないものです。リスパダールも少量使っています。

| | コメント (0) | トラックバック (3)

2006年9月18日 (月)

新米精神科医の修行

新米精神科医として働き始めてから半年が経とうとしていますが、まだまだ慣れないことばかりです。

1)病棟のシステム: 電子カルテは便利なのですが、紙の指示簿に書き忘れてナースからよくクレームが付きます。しかし、電子カルテに慣れてしまった今、紙カルテの病院に行ったらごっつ不便な思いをするだろうなぁ。。。

2)身体管理: 私は旧制度の卒業生なので、ローテートをやっていないのです。というわけで、採血などの手技は研修医に教わりながら細々と学んでいます。誤嚥性肺炎とか糖尿とかも回ってきて、あちこちにヘルプを求めながらなんとかこなしています。「ヘルプ」の出し方がうまくなったのぐらいが年の功かもしれません。

3)書類やサマリ書き: めんどくさがり屋で遅筆なもので。すらすら書ける人がうらやましい。。。

まぁ、臨床経験なく9年経過して再スタートしたわりには大きなトラブルがなかったのが救いですが、疲れやすいのは改善してほしいです。そろそろ体力トレーニングを再開すべきかもしれません。

| | コメント (6) | トラックバック (0)

2006年9月 4日 (月)

精神科養生のコツ

夏バテで勉強する気が起こりません。そこでちょっと軟らかい本を。

精神科養生のコツ Book 精神科養生のコツ

著者:神田橋 條治
販売元:岩崎学術出版社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

治療が医者の仕事なら、養生は患者側の努力でして、そのアイデアを集めた本です。私が手探りで学んだことともけっこうオーバーラップしていて面白いです。

目の周りの隈は脳の興奮、舌についている歯形は心身の疲労困憊の表れだとのこと。どちらにせよ私はよく休んだ方がいいみたいです。やっぱり!

漢方についても一章が割かれていて、私の場合は六君子湯が有効らしく補中益気湯はあまり効かないらしいです。ふむふむ。

てなかんじで、都合の良いところだけ拾い読みしています。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2006年8月 5日 (土)

漢方買いに行く

いつものことながら、梅雨の後半は体調が悪くてブログの更新も滞りがちでした。疲れやすくてどうにもならんので、西洋薬に頼れるのはここまでと思い、これを機会に漢方を試してみることにしました。

「京都」「漢方」でググルとここが出てきたので、先週、インターネットで症状を書いて送ると、勧められたのが香砂六君子湯。インターネットで申し込んだ後、近くのドラッグストアに行くと補中益気湯があり効きそうだったので購入。なんとなく混ぜて飲んでいたが、これではいかんと、昨日、漢方の健伸堂の実際の店舗に行ってみました。

簡単な問診と舌診(舌診についてはここを参考に)。舌はやや平べったくてぼてっとして、歯型がついており、少し白苔あり。気虚(エネルギー、主に消化機能が弱っている)で湿(水が溜まっている)なので六君子湯を続けるべしとのこと。さらに、暑さで寝付きが悪いと言うと、星火温胆湯を勧められました。

その後、漢方の本を買い込みました。どうやら、気虚の人間は葛根湯のような強い薬は使ってはいけないみたいです。詳細はまたいずれ。

家に帰って星火温胆湯を服用したら気持ちよく寝付けました。プラセボ効果かもしれませんが。六君子湯の効果はまだわかりませんが、近くのドラッグストアにも売っているので、夏バテして食欲の落ちるこの季節には続けてみるつもりです。

漢方は不定愁訴対策に有効そうなので、ちょっとずつ勉強してみます。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年7月22日 (土)

森田療法

うつは薬で改善するものの、それだけで治るものではありません。bio-psycho-socialのそれぞれの面に配慮する必要があります。

心理学的な側面を学ぼうと思っていやな気分よ、さようならを読もうとしましたが、アメリカ的な価値観に強い違和感を感じて読み進めませんでした(それに、ウツの人はこんな厚い本は読めない!)

日本人に合った認知療法として森田療法には注目していましたが、なかなか気に入った本が見つかりませんでした。

中年期うつと森田療法 Book 中年期うつと森田療法

著者:北西 憲二
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

この本は、ややまどろっこしいのと深みという点では物足りないものの、平易に書かれており星4つ。簡単にまとめると

1)愛と仕事に代表される「生の欲望」の不自然なあり方が、うつを引き起こす。だから、元に戻るだけではダメで、生き方を修正する必要がある。

2)回復のプロセスは、一方では「できないこと」をあきらめ、受け入れるとともに、他方では自分の「できること」すなわち自然な形の「生の欲望」を発見し、獲得していくことである。

残念ながら、どうやってそれを実現するかは十分説明されていません。きちんとしたケースブックがない現状では、森田療法は考え方としては参考になるものの、技法としては使えないものに留まるような気がします。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年7月13日 (木)

肩こりには葛根湯!

ずっと肩こりには悩まされてきました。ヨーガ、湿布、マッサージ器、アルコール、ベンゾジアゼピン、、、どれもイマイチ。。。

で、ツ○ラのMRさんが来たときに「肩こりに効く漢方はありますか?」と尋ねたところ、次の日、葛根湯のサンプルを持ってきてくれました(正確には葛根湯加川キュウ辛夷を持ってきてくれたのですが)

めちゃめちゃ効きました。

右肩にしつこく残っていたしこりのような感覚がきれいになくなりました。あまり期待していなかったので、プラセボ効果ではないと思います。ドラッグストアでも売っているので、肩こりにお悩みの方はぜひお試しあれ。

葛根湯は漢方の代表格らしいですね。これまで自分にとって未開の地であった漢方に興味が出てきました。とりあえず、ツ○ラのMRさんにいろいろサンプルをもらって、自分で試してみます。

追記:漢方に詳しい同僚に葛根湯の話を訊いたところ、「肩こりにはよく効きますよ。あと、エフェドリンが入っているから習慣性がありますよ。」とのことでした。使うのは程々にしたよさそうです。

| | コメント (6) | トラックバック (2)

2006年6月22日 (木)

抗精神病薬の作用機序---アンソニー・グレイスの仮説

あやしい神経科学者さんから、Anthony Grace博士がうちの大学でセミナーをすると知らせていただいて、俄然、勉強する気になってきました。抗精神病薬の作用機序に関する総説も教えていただいたので、簡単にまとめてみます。

ハロペリドールなどの抗精神病薬には、ドーパミンという神経伝達物質の受容体(D2受容体)の働きを阻害する、という共通した働きがあります。しかし、受容体の阻害はすぐ起こるはずなのに、幻覚妄想を減らすなど精神症状を改善するには数週間かかります。それまでの間に何が起こっているのでしょうか?

ハロペリドールをラットに投与すると、ドーパミンニューロンの発火は一時的に増えます。ところが、3週間、ハロペリドールを毎日投与すると、ドーパミンニューロンは脱分極するにもかかわらず発火しにくくなります(脱分極ブロック depolarization block)。このような現象が起こるまでに要する期間は、患者さんに投与して効果が出る時期と似ています。

ドーパミンニューロンは主に黒質と腹側被蓋領域(VTA)という二つの領域にあり、黒質は運動機能(錐体外路症状)と、VTAは精神病症状と深く関係しています。さまざまなドーパミン阻害剤の黒質またはVTAに対する脱分極ブロック作用を調べてみると、臨床的な運動機能ないし精神病症状に対する効果と相関がありました。すなわち、運動機能を阻害する薬は黒質のニューロンに脱分極ブロックを引き起こし、精神病症状に効果がある薬はVTAのニューロンを脱分極ブロックを引き起こしやすいのです。

たとえばハロペリドールは抗精神病作用があると同時に錐体外路症状も起こしやすいです。ハロペリドールを連続投与すると、黒質、VTAのニューロンはともに脱分極ブロックが生じました。

それに対しクロザピン(非定型抗精神病薬の一種、日本では未承認)は、抗精神病作用はあり、錐体外路症状は起こしにくいことが知られています。クロザピンを連続投与したところ、VTAのニューロンには脱分極ブロックを引き起こしますが、黒質のニューロンにはあまり作用しませんでした。

こうした結果から、黒質およびVTAのニューロンに対する効果を調べることで、副作用が少なく精神病に効果がある薬を動物でスクリーニングできると期待できます。

この総説が書かれてから10年近くたちますが、どのように受け止められているのかよく知りません。PubMedで調べる限り、その後、あまり発展していないような。。。むしろGraceの説ではtonic/phasic dopamineが中心的のようなので、次はこれを勉強するつもりです。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2006年6月18日 (日)

「発達障害かもしれない」と読んで

発達障害かもしれない 見た目は普通の、ちょっと変わった子 Book 発達障害かもしれない 見た目は普通の、ちょっと変わった子

著者:磯部 潮
販売元:光文社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

発達障害疑いの患者さんに教えてもらって読んでみました。主題は自閉症スペクトラムの中でも、知能障害のないため見落とされがちなアスペルガー症候群です。

アスペルガー症候群は、1)社会性2)コミュニケーション3)想像力の三領域にわたる障害です。簡単に言うと、自閉症に似ていて言語の障害が軽い人を指します。

正直な感想としては、アスペルガーの人に会ったことのない人がこの本を読んでもイメージできるようにはならないでしょう。エピローグで筆者が述べています。

・・・外から見えない彼らの能力の欠如は、自閉症スペクトラムの人たちと直接関わらない限り、おそらく想像することはできないのではないでしょうか。私にしても、精神科医となって彼らと関わっていなければ、他人の気持ちが分からない・考えられないということなど、思いもしなかったでしょう。

むしろ、「自分の子供はちょっとおかしいのでは?」と思った親が読んで、ここに挙げられている特徴に当てはまるか検討するのに向いているでしょう。

印象に残ったのは「現実には、結婚している人はほとんどいません」「知的能力の高さと安定就労は全く一致しない」という厳しい現実でした。彼らにどのような場を与えればよいのでしょうか?

ちなみに、読みながら聴いていたのはmazeのFree Soul Drive with Mazeで、メロー・ソウルが心地よいです。アレンジもオシャレだし。特にJoy and Painは甘~いです。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2006年6月11日 (日)

エビリファイの臨床試験結果

6月8日のエビリファイ発売に合わせて、臨床精神医学で特集が組まれていました。中でも「aripiprazoleの本邦における臨床試験成績」という総説は、臨床試験の結果をよくまとめているので、それを要約してみます。

1)複数の試験で中等度以上の改善は45~50%程度であった。

2)他の薬からエビリファイにスイッチしたところ、血中プロラクチン値は大幅に減少し正常値に収まった。

3)エビリファイの至適用量は85%が6~20mgの範囲にあった。

4)ハロペリドールを対照とした試験では、陽性症状の改善に差はなかったが、陰性症状の改善は有意に勝っていた。

5)関連性の否定できない随伴症状として、不眠(30%)、アカシジア(22%)、振戦(21%)、食欲不振(12%)、筋強剛(11%)、不安(10%)、運動遅延(10%)の順で多かった。

6)12ヶ月の長期投与200例以上で遅発性ジスキネジアは見られなかった。

さらに、次の総説「新規抗精神病薬を使いこなす」で上田均氏はエビリファイを使用するのが望ましい症例として、

1)精神運動興奮の少ない初回エピソード(鎮静作用が弱いため)

2)他の新規薬単剤で維持されているが、副作用面で問題になっている症例

3)病気や薬に対する理解が十分に進んでいて、本人や家族が切り替えを望んでいる症例

4)従来の抗精神病薬では十分な効果が得られなかった症例

を挙げています。

こうした結果や意見、どう思われますか?

| | コメント (35) | トラックバック (0)

2006年6月 6日 (火)

寝る寝る寝る zzzzz

ここ3日ほどよく寝ました。特に昨日は午後9時半から朝の7時半まで爆睡。おかげで昨日までの疲労感が消え、今日はここ1年で一番すっきりしました。いや~、寝れるのっていいですね、やっぱり。

精神科に入院している患者さんは睡眠薬の量がかなり多いです。ユーロジン4mg、ロヒプノール4mgで寝れずベゲタミンB追加とか。レンドルミン1錠で気持ちよく寝ている自分がかわいらしく(?)思えてきます。

マイナー・トランキライザーは何種類か試してみましたが、メジャー・トランキライザーは未知の領域です。MRさんに体験談を聞いたら、「ジプレキサ5mgで丸1日寝ていた」「リスパダール2mg飲んだらほぼ2日寝ていた」という答えが返ってきました。試供品はもらっているのですが、怖くて試していません。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年5月30日 (火)

発達障害を考える

今週の福祉ネットワークの時間はハートをつなごうと題して発達障害が取り上げられています。少しでも発達障害についてイメージを持つために見ています。

正直言って、現状では精神科医がきちんとした児童精神医学のトレーニングを受けることは期待できません。でも患者さんはやってきます。ということは、手探りで自分なりに勉強していかなくてはいけないのです。自閉症、アスペルガー症候群、多動症候群(ADHD)、学習障害・・・うー、精神科ってなんて大変なんだ。。。しかも、確立した治療法がなかなかないんです、これが。

しかし、私が臨床医学に目覚めたのは実は発達障害に関する2本の論文Science 271 77-81(1996)Science 271 81-84(1996)からなのです。

この二つの論文の主旨は次の2点です。

1)言語の学習に特異的に障害がある子供たちは、子音の弁別に障害がある

2)そのような障害は、トレーニングを工夫することによって改善しうる

1)に関しては、言語のような高度な認知機能の問題が、音の弁別という非常に低次な問題に帰着できるということが大きな驚きでした。

2)に関しては、子供たちが毎日何時間も集中できるよう、トレーニングがコンピュータゲームとしてプログラムされているのが興味深かったです。論文の補足データとして、子供がゲームに興じているビデオが提供されていたのが非常に印象的でした(今は削除されてしまっています)。

以後、Fast ForWordという一連の製品として全米で広く使われているようです。どのくらい有効なのか疑問はありますが、医療・教育に脳科学とITを持ち込んだという意味で、非常に先進的な取り組みだと思います。

| | コメント (3) | トラックバック (0)

2006年5月23日 (火)

非定型精神病(あるいは急性一過性精神病性障害)

「非定型精神病」という病名は異論も多いのですが、内因性の精神病を大まかに統合失調症と躁うつ病に分類したときに、そのどちらとも分類しにくい疾患、というのが元の概念です。

臨床的な特徴は

1)急性に発症(2週間以内)

2)多様な精神症状を示す。

不安、心気症、猜疑といった神経症的な症状から始まり、抑うつや躁のような気分変動、情動混乱、妄想や幻覚といった精神病症状を伴う。

時にこれらの症状が日々、ないし時々刻々と変化することがある(多形性がある場合)。

3)短期間(1-3ヶ月)に跡形もなく治癒する。

ICD-10の分類では主に「急性一過性精神病性障害」にあてはまります。長ったらしいですね。

治療は統合失調症と同じで、第二世代抗精神病薬(リスパダールなど)を中心とした薬物治療です。

(当然ながら)統合失調症より予後はよいです。

「非定型精神病」という病名は京大関係者によく使われ、それ以外ではあまり認められていないとか。たしかに、二大精神病論という歴史的な経緯をのけて、統合失調症の一亜型と考えた方がわかりやすいですしね。

ちなみに、治療という面では、重症の躁病の時は抗精神病薬(ロドピンなど)も使いますし、統合失調症で感情が安定しない人にはデパケン(てんかんや躁病の薬)も追加します。精神科の薬の使い方はボーダーレスです。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2006年5月19日 (金)

エビリファイ 追記

「エビリファイ」でサーチをかけてみたらこのブログがかなり上位に来てびびりました。そこで、情報を追加します。(主にO塚製薬のパンフレットの要約)

・発売は6月8日になりました。

・精神症状を改善する効果はリスパダールに匹敵するが、効果が現れるのはゆっくり。

・国内でのテストでは錐体外路症状(手が震える、ムズムズしてじっとしていられない、筋肉がこわばる、など)が約1/4の症例で認められた。しかし、海外でのテスト(4~6週間の投与)ではプラセボとあまり差がない。

・別の薬を使ってプロラクチンが高くなっていた場合、エビリファイに切り替えるとプロラクチンが正常域に戻る。なので、勃起障害、無月経、乳汁分泌といった副作用を減らせる。

・体重や血中の脂肪を増加させにくい。どちらかといえば減らす傾向がある(統計的に有意かどうかは不明)。

というわけで副作用が少ないのが売りのようです。リスパダールに比べてマイルドで、ジプレキサの欠点である肥満が起きにくく、セロクエルやルーランよりも効きがいい、という位置づけでしょうか。

急性増悪にはリスパダール、維持にはエビリファイ、という感じで使われるようになるかもしれません。長期的にみて陰性症状に効果があるのか、大きな関心のあるところです。

他の薬からのスイッチングは、もとの薬にエビリファイを2週間ほど上乗せしてからもとの薬を漸減していくとのことです。今、リスパダールで副作用が出ている患者さんがいるので、使っていこうかという話になっています。

ご質問をコメント欄にいただければ、手元にあるパンフレットに載っている範囲でお答えします。

| | コメント (14) | トラックバック (0)

2006年5月13日 (土)

抗うつ薬

うつは治る」と言われています。

しかしそのためには、その人に合った抗うつ薬を十分量、飲まなければなりません。さらに文字通りゆっくり休むことが必要です。

最近、処方されるとすれば、SSRIのデプロメール(ルボックス)